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名古屋高等裁判所 昭和54年(ネ)396号 判決 1980年7月17日

控訴人

株式会社菅鉄工所

右代表者

安宅勝重

右訴訟代理人

伊藤公

被控訴人

オリエント・リース株式会社

右代表者

乾恒雄

右訴訟代理人

吉田清

纐纈和義

主文

原判決を左記のとおり変更する。

控訴人は被控訴人に対し、金二九〇万二二四三円およびこれに対する昭和五二年一一月八日から右支払ずみに至るまで、日歩四銭の割合による金員の支払をせよ。

被控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一・二審を通じてこれを五分し、その四を控訴人の負担、その余を被控訴人の負担とする。

この判決は、被控訴人勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人らは「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の主張と証拠関係は、左記のとおり付加するほか、原判決の事実摘示と同じであるから、これを引用する。

一  控訴人の主張

本件リース契約は、公序良俗に反し、無効である。すなわち、

1  本件リース契約によれば、被控訴人には解除権が認められているのに対し、控訴人側からはいかなる事由があつても、これを解除できないことになつている。かかる条項は、当事者間の衡平を著しく失する(ちなみに控訴人は、原判決認定のように、遅くとも昭和五〇年一月ころには、被控訴人に対し、「本件物件は採用しないことに決定したので、これを引取つてほしい。」と申入れたのであるから、被控訴人としては、この時点で紛争解決の方途を採りえたし、信義則上そうするのが当然である。)。

2  本件リース契約の実体は、被控訴人から控訴人に対する資金の融通に他ならないところ、そもそもリース料の金額は、融資元本四七〇万円に、六〇か月分の利息二二一万二六〇〇円を加算したものである。したがつて、不払リース料につき更に日歩四銭もの遅延損害金の支払を定める条項は、元本に対する高利の複利を認めることになる。

3  控訴人は本件物件を全く使用していないので、被控訴人がこれを引揚げた時の価額は、新品同様、金四七〇万円相当であつた。したがつて被控訴人は、引揚げ時以後のリース期間に相応するリース料を請求しうるのと併せて、高価な本件物件をも無対価で取得する結果になる。

4  被控訴人は、賃貸人ならばこれを負担すべきものとされている本件物件の瑕疵担保責任や管理責任を、本件リース契約上は全く負担しないことになつている。

このようにしてみると本件リース契約は、被控訴人が、本件物件のメーカーやディーラーの資金不足に乗じて、融資による高利を収めながら、半面、賃貸人としての義務をすべて免れることに帰するのであつて、まさしく、契約自由の原則を悪用して暴利を図るものというべきである。

二  被控訴人の主張

1  本件リースの性格

本件リース契約は、ファイナンス・リースといわれるものであるが、これは、リース会社が、資金的余裕のない購入希望者に替つて、物件を自己の資金で製造業者・販売業者から買い取ると共に、購入希望者との間でリース契約を締結し、リース料として物件代金・金利・その他の諸経費を回収するものである。これについて重要なことは、購入物件の機種・売主・納期・価格および保守など、購入条件を選択特定するのは購入希望者であるということであり、リース会社は、購入希望者が決定したところにしたがつて売主と購入希望者との間に介入し、経済的には、購入希望者に対する金融上の便宜の供与がその本質である。そして、リース料の額は、物件代金に、金利および諸経費(固定資産税・保険料など)・手数料を加えた金額から、リース期間終了時における物件の残存価額(本件物件のばあいはほとんど残存しないこと、後述のとおりである。)を差引いた金額を、リース期間内に回収できるように定められる。したがつて、リース契約においては、契約時にリース料債権の全部が発生しており、ただ、割賦支払の方式により期限の利益が与えられているにすぎないのであり、賃貸借における賃料のように使用収益の期間に応じて対価が支払われるわけではない。たとえば本件のごとく、期間五年のリースの場合は、五年分のリース料の六〇分の一を、毎月分割して支払うのである(それゆえ、控訴人は本件物件を全く利用しなかつたとしてもリース料全額の支払義務は免れず、このことはたとえ被控訴人が本件物件を引揚げたばあいでも同じである。)。

2  リース料にまつわる問題について

(一)  リース料の内容は右に述べたとおりであつて、単に物件の代金額(融資元本)とその利息の合計にとどまるのではない。したがつて、他から借入をして購入するばあいよりも割高となることは控訴人が指摘するとおりであるが、購入希望者は適当な担保がなくとも物件を調達でき、しかも減価償却など経理事務の負担も免れる。そのゆえにこそ、リースが選択されるのであり、そこにリース制度の合理性も存するのである。

(二)  リース会社は売主に物件の売買代金全額を支払つてしまうのであるから、購入希望者から、リース料全額の回収を図るのは当然のことである。しかもリース契約においては、物件引揚げと併せて未払リース料の支払請求をなしうるのは物件の賃借人の責に帰すべき事情によるばあいに限られているのであるから、このような約定に基づく本件請求が、権利の濫用にあたらないことはいうまでもない。

本件において控訴人は、リース料の支払に全く応ずる気配がなく、約定の保守・監理の義務を尽す意思もない状況であつたのであつて、控訴人の責に帰すべきばあいであることは明らかである。

(三)  かようにして物件の引揚げが是認されるのであれば、その物件をリース会社がいかように処分しても、それはリース会社の権限の範囲内の事柄である。

しかも、リース物件は、既述のごとく購入希望者の選定によつて特定の物を購入するのであり、特に本件のように進歩改良の速い事務機器は、他への流用が不能に近い。したがつて、かりに処分が可能であつたとしても、その金員の清算を行わないからといつて不当ではない。

(四)  購入希望者がリース料を遅滞した場合の遅延損害金の約定は、法律上許されている賠償額の予定であり、また、消費貸借契約ではない本件リース契約においては、利息制限法上の問題を生ずる余地はない。

3  リース会社は物件についての担保責任や修繕義務を負担せず、また購入希望者からのリース契約の解約は制限されている。これらは、1項で述べたリース契約の性格に由来するものであつて、何ら不法でない。

(一)  リース契約においては、前述のとおり、物件の選定が購入希望者によつて行われるうえ、完全な金融を与えられるので、右希望者がその物件を購入したのと同一の効果をもたらす。したがつてリース契約においては、物件供給者と購入希望者との間に実質上、売買がなされたものと考え、リース会社は物件にいかなる瑕疵があつても責任を負わず、それを理由とする購入希望者の契約解除や支払拒絶を許さない特約(本契約第六条)は、是認されるべきである(民法の担保責任に関する規定は強行規定ではなく、これと異なる特約も有効である。反面、本件契約には、購入希望者救済の措置も存する。第六条二項)。

(二)  このようなリース契約の特質に鑑みれば、リース会社は、賃貸人としての義務を負うことなく、購入希望者が物件の保守責任を負う旨の約定は当然のことである(民法六〇六条一項は強行規定ではない。)。

三  当審における証拠関係<省略>

理由

一本件につき更に審究した結果、当裁判所も原審と同じく、本件物件のリース料全額の請求権は、これに対する約定の遅延損害金を含めて発生しているものと判断する。その理由は、原判決八丁表六行目から一一丁裏三行目までに詳細に説示されているとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決九丁裏末行に「三項」とあるのを「四項」と訂正し、同一一丁裏二・三行目の「、清算され」を削る。)。本件リース契約が公序良俗に反するといえないことは、被控訴人が当審において的確に主張しているとおり(ただし、2(三)を除く。)であると考えられる。控訴人がるる陳述するところは、ひつきよう、リース取引の実態を正解しないものであつて、とうてい採用することができない。

二しかしながら、更に進んで考えるに、被控訴人は、右のごとくリース期間全部に対応するリース料の受領を許容される半面で、前認定(引用部分)のとおり昭和五二年一一月七日に本件物件を控訴人方から引揚げたことによつて、この時点からこれを自由に処分しうる立場に立つたわけである。しかるに、本件リース契約が滞りなく満了したとしても、被控訴人は、リース料の全額と、リース期間終了時点での物件の返還を受けうるにすぎない。してみれば、本件物件を引揚げた時点から、リース期間が満了すべきものと約定されていた時点までの期間内における物件の利用価値は、被控訴人において謂れなく利得したものといわざるをえず、その価額はこれを控訴人に返戻すべきものとしなければ、当事者間の衡平を失することは明らかである(もとより本件契約書にも、物件を引揚げたときの清算を不要とするごとき条項は、含まれていない。リース期間の極めて初期の段階で物件の引揚げがなされたばあいを想定してみれば、かかる清算を不要とする約定の不衡平は、自明といえよう。)。そして本件のように、未払のリース料があるときは、これに右の返戻すべき金額を充当したうえ、もし残余があればこれを控訴人に返戻すれば足りるとするのが合理的である(原判決六丁裏九行目から七丁表四行目までに記載されている控訴人の主張は、このような趣旨における清算をもいうものと善解できる。)。

そこで、本件物件の早期引揚げによる被控訴人の利得の価額について検討するに、本件契約書の一三条三項には控訴人の物件返還義務が履行不能になつたとき被控訴人に支払われるべき損失金額が規定されており、加えて同条四項には、「規定損失金額の支払完了と同時にリース契約は終了」する旨(したがつて、じ後のリース料の支払は不要になる。)、五項には、「乙(賃借人)が……規定損失金額を支払つたときは、甲(賃貸人)は、現状有姿のままで物件の所有権を乙に移転」する旨が、それぞれ定められているのであるが、これらの条項によれば、右の規定損失金額とは、要するに、その時点での本件物件の価額として契約当事者間で合意された金額であるということができる。そして、同契約書の別表(9)によれば、規定損失金額は、第一年度五一一万四〇〇〇円、第二年度四五三万五〇〇〇円、第三年度三五四万九〇〇〇円、第四年度二四七万円、第五年度一二九万一〇〇〇円となつている(つまり、約定のリース期間が満了した時点においても、本件物件の価値は零となるわけでなく、なお金一二九万円余の価値が残存するものと評価されており、控訴人はかかる価値を有する物件、またはこれに相当する規定金額を被控訴人に返還しなければならないとされているのである。)。

そうすると、右のごとく逐年漸減して行く各規定損失金額の差は、それぞれの年度の期間内における本件物件の利用価値を示すものにほかならないといえる。したがつて、本件物件が控訴人方から引揚げられた昭和五二年一一月七日(これは第四年度に属し、同年度における本件物件の価額は、前述のように金二四七万円である。)から、本件リース契約が満了すべきものと約定された時点(最終年度における物件の価額は、金一二九万一〇〇〇円)までの間における本件物件の利用価値は、右の差額の金一一七万九〇〇〇円と認定するのが相当であり、この金額は、被控訴人の利得額として、本件未払リース料から差引かなければならない(被控訴人は、契約の解除や物件の早期引揚げをすることなくリース契約を継続したままでリース料の一括請求をなしうるものとされているのであるから(契約書一七条一項)、それにもかかわらず契約中途で物件引揚げの手段を選択した以上、被控訴人にかかる清算を受忍させることは酷といえない。)。

三そこで、右一一七万九〇〇〇円の充当関係を考えると、原判決で認容された金額のうち、本件リース契約解除の効果が生じた昭和五一年八月二〇日の前日までの遅延損害金は、

(一)  内金一一万五二一〇円に対する昭和五一年五月一一日から同年八月一九日まで(一〇一日間)の日歩四銭の割合による遅延損害金……金四六五四円

(二)  内金一一万五二一〇円に対する昭和五一年六月一一日から同年八月一九日まで(七〇日間)の日歩四銭の割合による遅延損害金……金三二二五円

(三)  内金一一万五二一〇円に対する昭和五一年七月一一日から同年八月一九日まで(四〇日間)の日歩四銭の割合による遅延損害金……金一八四三円

右合計九七二二円である。

つぎに、元本三四五万六三〇〇円に対する昭和五一年八月二〇日から昭和五二年一一月七日(本件物件を引揚げた日)まで四四五日間の日歩四銭の割合による遅延損害金は金六一万五二二一円である。

つまり、昭和五二年一一月七日当時における遅延損害金は、合計六二万四九四三円となるから、同日弁済されたとみなすべき金一一七万九〇〇〇円のうち、元本に充当しうる金額は、金五五万四〇五七円である。したがつて、元本残額は金二九〇万二二四三円ということになる。

四そうすると、原判決は一部失当に帰するから、これを右の趣旨に従つて変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条・九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(村上悦雄 吉田宏 春日民雄)

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